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「好きなものを自分で作りたい」そしてソニーの事業責任者へ——阪大OB對馬さんに迫る

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Edited by  蒲生由紀子

Twitter@ykringum

OUlifeでインタビュー記事を書くのは実に2年半ぶりになる。また書くことになったのには色々と訳があるが、つい最近までずっと東京にいたりして、そこで感じたことがきっかけでもある。

 

阪大は良い大学なのに、発信力が弱いから知名度が低い

 

———そんな中、とある阪大卒の先輩の噂を耳にした。何でも、ソニー社内ベンチャーの責任者として、スマートウォッチを作っているという。對馬哲平(つしま てっぺい)さん、2008年阪大工学部応用自然学科入学。3回生から精密科学コース専攻。

 

活躍している阪大OBを発信したいという思いはもとより、そんな稀有な才能を持った先輩がどんな人なのか気になり、もしよろしければ記事にさせていただけないか連絡をとった。

 

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学部時代は国内外を1人でバックパッカーして、色んな人の家に泊めてもらった」「一時期は10人くらい家庭教師で生徒を受け持ち、ご飯を食べさせてもらっていた」という對馬さんは、とても明るくて気さくな方だった。

 

自分は他の人と比べて全然優秀でもなく、研究がすごくできるわけでもなかったです」と話す對馬さんだが、院生になると、応用物理で有名な河田先生が作ったベンチャー企業で働いたり、メーカーズサミットという“これからのものづくりがどうなっていくか討論する場”を主催するなど、精力的に活動していた。

 

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 自分で何かを作りたい思いは学生時代に芽生え、起業にも興味があったそうだ。對馬さんは、一見すると若くから活躍できるベンチャーに親和性があるようにも映るが、さまざまな分野に事業領域をもつソニーという大企業に魅力を感じた。

 

 
ベンチャーではウェアラブルデバイスの量産が難しい 

 

對馬さんは、ウェアラブルデバイスを自分で作りたい気持ちがあった。ウェアラブルデバイスとは、スマートウォッチ、スマートグラス、イヤホンなどの身に付けることができるものだ。

 

それを作れるのはどこかと考えると、ベンチャーよりも大企業の方が有利だと考えた。

 

ハードウェアベンチャーは量産で失敗することが多くあります。それは量産経験が蓄積されておらず、そこに至るまでの泥臭い課題を解決しきれないから。海外大手クラウドファンディングでも、商品が顧客に届く確率は40%以下にもなると聞きます

 

もちろん、ベンチャーの事業が自分とやりたいこととだったら良いだろう。對馬さんはウェアラブルデバイスをちゃんと量産できる日本の会社をいくつか探し、その中でソニーを選んだのだ。

 

 

入社後、1年目で社内ベンチャーのプロジェクト・マネージャーへ

 

對馬さんは、新卒1年目にしてソニー社内ベンチャー「wena事業室」の責任者となる。 

珍しい「社内ベンチャー制度」だが、作られたのにはこんな背景がある。

 

“ソニーはスマホ、カメラ、ゲーム、映画、音楽など幅広く事業を展開している。とはいえ、たとえば農業など全く新しい事業だと、どこの事業部でやればいいかわからないものが多くあり、やりたいことができる事業部がないと独立したり、諦めてしまう人がいた。

そこで、そういう人の受け皿になるために新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」と呼ばれる仕組みが生まれた。 wena事業室もSAPから生まれた社内ベンチャーの一つだ。

現在SAPを通じて、IoTブロックのMESHやパーソナルアロマディフューザーのAROMASTICをはじめ、おもちゃやBtoB向けのサービスなど計13の事業が誕生している。”

 

社内ベンチャーは、オーディションで合格すると事業化の検討を開始する。2017年3月までに9回開催、およそ1600人が応募した。オーディションはソニーグループ(たとえばソニー銀行など)の社員なら誰でも応募でき、3人くらいでチームを組んで競うことになる。

 

對馬さんは同期2人と組んだチームで、およそ100組の中から選ばれた。

 

選ばれたら順調に進むのではなく、そこからがスタートで、技術的に本当にできるのか、ビジネスになるのかなど、やるべきことはたくさんあった。

事業をする人も集めなければならない。それぞれ設計、アプリ、ファーム、管理、調達、サーバーなどができる人に打診し、OKをもらったら、次はその人の課長や部長にも交渉したという。  

 

相手のメリット、デメリットを考え、相手がそれを受け入れたら交渉は成立します。どれだけ事前に作戦を練れるかが重要です。物事を円滑に進めるためには必要になりますね

 

コミュニケーション能力というより、どれだけ相手のことを考えて立ち振舞えるかが、私たちの身の回りのさまざまな局面でも大事なことなのだろう。

 

 

「時計」にした理由

 

ウェアラブルデバイスの中でも時計にしたのは、對馬さんがとくに好きだったからだ。

 

スマートウォッチは通知や活動量計としての機能的な価値、腕時計はアナログ時計としての美しさ、所有感、思い出などの情緒的な価値というように、どちらの時計にも魅力があった。

 

對馬さんが22、 23歳のときは2つの時計を身につけて生活していたため、夏に電車に乗っていたら変な目で見られたこともあり、「悲しさからこれを作った」とも話す。

 

腕時計として長年培ってきた伝統や文化を大切にしながら便利な機能を入れる。腕時計とスマートウォッチを合体させるということで発案しました

 

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 「数字を排して敢えて線のみのシンプルなデザインに徹しつつ、線の太さと長さに差をつけることで視認性を高めた」(wena製品一覧/WN-WB01S+WN-WT01W-Hより)

 

 

 

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BEAMSとのコラボモデル。「BEAMSコーポレートカラーのオレンジをアクセントに、カジュアルにもビジネスにも取り入れやすいファッション性を追求した端正なフェイスデザイン」(wena製品/WN-WB01S+WN-WC02S-Hより)

 

 

 

 

たとえば多くのスマートウォッチは、ガジェッターというPCや電子機器が好きな人が初期のターゲットとなる。しかしwenaは、見た目はアナログ時計なのにスマートウォッチであることを1番大事にしており、既存の腕時計ユーザーが購入しやすいということでターゲットが被っていないのだ。

 

また、事前に市場調査のためクラウドファンディングをし、それが当時の日本記録にもなるほどの評判でたくさんの人に購入してもらったため、自分の思っているものが世の中にも受け入れられる自信になったという。

 

 

「事業を大きくしたい、でもその後はプレーヤーとしては引退したい」

 

對馬さんは当初、量産の勉強をして入社4年目くらいから自分の事業をやりたいと考えていた。しかし、1年目で始めたのは、1番スマートウォッチを始めるのに良いタイミングだったからだ。

 

商品を作るにおいて、自分にとって良いタイミングと世の中がそれを受け入れるタイミングが合致すればいいが、都合よく合致するとは限らないんです。 

入社1年目はちょうどApple watch やGalaxy Gearが出てきた頃で、世の中のタイミングが1番良かった。自分のやりたいことと世の中の需要の感覚を測っておくことは大事だと思います

 

 

 

現在はwena事業が成功し、朝から晩まで事業のことを考えているのが心地よい對馬さんだが、事業をもっと大きくした後はプレーヤーとしては引退したいという。

 

 

プロ野球選手は現役でいられる期間が短く、ノーベル賞受賞者も人生全体ではなくどこかの研究成果が評価されてノーベル賞を取ります。人が頑張れる期間は限られているんですよ。 

今の生活を30年間続けられるかといえば、結婚もできなくなるし無理ですね。頑張れる期間を20年として、1回を5年ロードマップとすると、4回しかできない。つまり、自分が世界を変えられるチャンスは4回しかないから、戦える期間を大事にして、力を尽くして生きたいです。

25歳から始めたので、一旦35歳でプレーヤーとしては引退するつもりで区切りをつけて仕事をしています。そのあとはマネージャーやサポーターに回りたいですが、あと10年だ!と言ってプレーヤーを続けているかもしません笑

 

 

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大企業だと、若手のうちは自分のやりたいことができないんじゃないか?というイメージを持つ学生もいるだろう。しかし、對馬さんはあくまで自分のやりたいことを貫いている様子だった。

 

35歳で引退なんて上司に言ったら怒られるんじゃないかと思ったが、對馬さんはソニーで明確にやりたいことがあり、企業のニーズとも合致したのだろう。

 

若手でもチャンスがある。ここに、日本の大企業の新しい姿がある気がした。

 

對馬さん曰く、まだ自分はソニーの企業全体としての目標などを語れるポジションではないが、会社には恩があるので精一杯ソニー内でやりたいし、恩の返し方は色々方法がある。今は新卒採用を手伝ったりもしているそうだ。

 

 

勝負する期間を定めて生きてほしい

 

最後に、對馬さんから阪大生へのメッセージをいただいた。

 

 

僕は優秀な学生ではなかったが、ガジェットという好きなものがありました。好きなものがある人は、それを大事にしてほしい。 

好きすぎると、それ自体をカスタマイズしたくなるし、我慢できなくなって作りたくなります。

本気で頑張れる期間は限られていて、もちろんその時期は人それぞれで、たとえばより晩年になって信用を築いてから銀行を作るなどでも良いですが、自分の中で勝負する期間を定めて生きていってほしいです

 

 

 

 

何かと理由をつけ、本気を出して頑張ることから逃げがちな私にも響く言葉だった。

 對馬さんは好きなものを追求して生きている、だからこそ言葉が自信に満ちている。そして熱意を持つ一方で、計画的に人生を考えているのだ。

 もしかしたら、私が勝負する期間は今かもしれない。つねにそこを見極めて生きていきたい。

 

 

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