ARTICLE

100年後は”ペーパー社会”になる?!紙の電子ペーパー開発者、古賀大尚先生インタビュー

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

Edited by  蒲生由紀子

Twitter@ykringum

NewsPicksで1870ピックスされている阪大関連の記事を発見した。

 

IMG_1644

 

紙の電子ペーパー」、タイトルからしてキャッチ―だ。

もちろん早速取材に行った。吹田キャンパスにある阪大産業科学研究所に着くと、最近昇進したばかりという古賀大尚准教授が笑顔で迎えてくれた。

 

 紙の電子ペーパーとは

ー 今回、「紙の電子ペーパー」を開発されたわけですが、概要を教えてください。

 紙の電子ペーパー、「頭痛が痛い」みたいな言葉ですよね。ネットのコメントを見たら混乱されている方も多かったです。要は、紙で作った電子媒体です。極論、Kindleが紙でできているイメージをしていただけたらと。

現時点では単純な基本素子ですが、基本的な材料と技術はできているので、作り方を変えればペンで書いたりというのもできると思います。

 

 

 

ー 紙の電子ペーパー。ハリー・ポッターの新聞みたいなのをイメージしてしまいました。

(https://it-fan.net/raspberry-pi/rpi-idea)

(https://it-fan.net/raspberry-pi/rpi-idea)

 

あれは究極形態ですね(笑)

もしあんなのができたら、本当にすごいと思います。今は、iPad などの電子デバイスでできるような表示はこっちでも頑張ればできるかなという段階です。技術を持っている人と組めば。ただ、まだだいぶ先かなと。

 

 通常の電子媒体は、ガラスやプラスチックなどの透明基材を使って作られています。一方、紙は白いので、電子媒体には適していませんでした。その中で我々はセルロースナノファイバー(CNF)という材料から作られた、新しい「透明な紙」を使うことで紙ベースの電子媒体を実現しました。

この透明な紙自体は、当研究室の能木雅也教授が開発されたものです。

 

普通の紙が白いのは、パルプ繊維(紙の原料)が少し太いからです。そうするとスカスカな構造になって、大きな孔がたくさん空きます。理系の説明になってしまいますが、そこに光が入り込んでいくと、繊維にぶつかって反射したり散乱したりして、光が戻ってくる。

繊維と空気の屈折率が違うためですね。だから、透けずに白く見えるのです。

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

これが「透明の紙」。見た目も触り心地も普通のビニールのようだ。

 

 

一方、透明な紙はパルプ繊維より1/1000ぐらい細いCNFでできていて、詰まった構造になっています。孔が小さく紙の中に含まれる空気も少ないので、光が反射散乱せず、そのまま通過して、透明になります。紙を電子媒体にするためには、絶縁性の紙に電気伝導性やイオン伝導性を付与したり、その他科学的な工夫もしています。

 

 紙にかける熱意

ー 先生は「紙」の価値・イメージを刷新したいと思われているそうですね。

近年、「ペーパーレス化」という言葉がよく使われるように、紙の価値が徐々に低下しています。紙を使うと森林破壊につながると思われるかもしれませんが、成長しきった木は CO2を吸わなくなるので、切って植え直した方が環境に良いのです。

計画的に、木材資源を利用することが重要です。

 

木材資源から作られる代表的な材料が「紙」です。そのため、持続生産可能な森林資源の有効活用のためにも、紙の機能イノベーションが求められます。ペーパーレス化に進むのではなく、これまでのイメージとは異なる、想像できなかったような本当に良質で新しい紙を作りたい、という思いで研究に取り組んでいます。

 

ー 「紙」の利点を具体的に教えてください。

これからの環境共生社会に、紙は不可欠な特性を持っています。たとえば持続生産性、大量高速生産性、フレキシブル性、リサイクル性など。人や環境への優しさは抜群です。あとは、紙に最先端の機能が加われば鬼に金棒です。我々は、それを目指した研究に取り組んでいます。

 

電子デバイス応用に関して従来のデバイス製作技術を使えば同レベルの性能は出るのに加え、紙なので地面に落としても画面が割れないという利点はあります。その他のメリットとしては、土に還る生分解性ですね。従来の電子媒体と比べて、廃棄・リサイクルエネルギーを大幅に削減できる可能性を持っています。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

環境にやさしい部品での開発を目指す。

 

あとは感情的なものとして、「やはり紙がいい」とか、使い心地や触り心地はガラスでは出せない味が出せて、武器になるんじゃないかと思います。

 

紙の電子ペーパーに関して、産業科学研究所の定例記者会見で発表する機会を頂いたとき、世間の反応が少し怖かったです。「紙でやる意味がどこにあるのか?」と自問自答しながら研究していたので。本当は4、5年前にできていたのですが、実際の論文発表(半年前)までは時間がかかってしまいました(笑) 

しかし、想像以上にポジティブな反応をいただけました。「これすごい欲しい」「やっぱり紙媒体がいいよね」とか。個人的な最大の収穫は、紙が好きな人が多いのがわかったことです。紙の研究を進めていく上で、モチベーションがすごく上がりました。

 

 紙の電子ペーパーの過去と未来

ー 先生が描く、紙の電子ペーパー最終形態による未来を語ってください。

 究極的には、紙の軽さ・柔らかさを持った電子情報媒体ができるはずです。紙の起源を遡ってエジプトのパピルスから考えれば、約5000年もの間、人類は紙に情報を記録してきました。

 最近はガラスやプラスチックをベースにした電子媒体が普及しているとはいえ、やはり情報媒体は紙でないと、と考えている人はたくさんいると思います。紙の使い心地、環境調和性と先端デバイスの機能を両立して、すべての利用者が心から使いたいと思える未来の紙の情報媒体を目指したいと思います。

 

ー 紙の歴史をつなぎたいと。もしこれが浸透したら、100年後には再びペーパー社会になっているかもしれないと考えるとすごいですね。

 そこら辺の媒体が全部紙、ってなっているかもしれないですよね。

 私は紙に強い思いを持っていますが、他の研究者や企業さんにはまた別の信念でやっていらっしゃる方がたくさんいるので、次にどんな世の中が来るかはわかりません。空間に浮かぶプロジェクションマップ(※画像が空中に浮かび上がっているもの)などの技術もすごいなと思いますし。

 

「藤子・F・不二雄展」(https://spice.eplus.jp/articles/57471)

「藤子・F・不二雄展」(https://spice.eplus.jp/articles/57471)

 

ただ、メールの文面などの場合、みんなに見えちゃうのは嫌ですよね(笑)メガネとかを使って、自分だけにしか見えない技術が開発されたらいいなと思います。

 これからの時代、スマホの次に何が来るのかは分からないけれど、本当に使ってもらうようにするにはそれでなければならない魅力が必要だと思うので、ガラスとかプラスチックでできるものを紙でやったというのではなく、紙ならではのものを提案していけたらなと思います。

 

ー 今はリサイクルとか持続可能性が無視されているのかもしれませんね。

そうですね、やはりコスト・利益が重要になりますよね。ただ、今後規制は激しくなってくると思います。つい最近では、イギリスが使い捨てプラスチック製品の販売を禁止するというニュースがありました。

その中、持続生産可能で環境にも優しい、木から取れるCNFが大きく注目されています。このナノファイバーは鋼鉄の5分の1の軽さで5倍強いので、たとえば、自動車のボディに少し混ぜて軽量・高強度化する試みが進められています。既に実用化されているものでは、ボールペンのインクがあります。ナノファイバーが入ることで、速く書いてもかすれなくなるんです。

CNFからできた透明な紙は、2008年に日本で開発され、現在ではすでに工場レベルでの連続生産設備もできつつあります。企業さんによるサンプル提供も始まっているので、近い将来、身近なものになると思います。

木材由来のCNFは、日本再興戦略2016・骨太方針2016(いわゆるアベノミクス)にも明記されており、透明な紙も含めて、次代の環境共生社会に向けた大きな希望のひとつです。

 

 阪大内でのコラボ

ー 阪大の他の研究室と共同研究とかはされていますか?

ちょいちょいとコラボレーションしています。産業科学研究所は色々な分野が入っていて、学部の垣根がないのでコラボはしやすいです。これからは、自分の専門性を磨きつつ、他分野の専門家と組むことでより大きなイノベーション創出を目指すことも重要になっていくと思います。

今回のフレキシブル電子デバイス関係で言いますと、関谷毅教授という注目の研究者もいます。日経ビジネスの「次代を創る100人」に安倍晋三、孫正義、関谷毅・・・というように選ばれたすごい方です。

 

日経ビジネス「次代を創る100人」(http://business.nikkeibp.co.jp/special/next100/)

日経ビジネス「次代を創る100人」(http://business.nikkeibp.co.jp/special/next100/)

 

関谷先生はあらゆるデバイスを最終形態まで持っていける知識・技術をお持ちの先生なので、そういう先生と組めたら紙デバイスの実現も大いに加速すると思います。

 

大学で開発したものの製品化ですが、企業さんとしてもすぐ売り出すことは難しいので、研究レベルである程度は形として出口に近いところまで持っていってアピールすることも求められると思います。

当然、研究分野によりますが。

 

最近では、だったら自分たちで製品化してしまおうとベンチャーを自身で立ち上げられている先生もいます。博士・修士課程修了後に起業した学生さんも知っているので、そういった形も今後増えてくるんじゃないかなと思います。

 

ー 阪大の技術を総結集すれば、紙の電子ペーパーを多本面に活用できそうですね。

阪大は世界を牽引するような研究者がたくさんいる。可能性は無限大だと思います。

学生さんも是非、先生方からたくさん学んでください。

 

 研究室メンバー募集!

ー 最後に、阪大生へメッセージをお願いします。

偉そうなことは言えませんが・・・いつの時代もそうかもしれませんが、定まった道が準備されているなんてことは少ないので、自分で道を切り開く力がますます重要な時代になっていくと思います。

それぞれの興味の中で必要な力を磨いていくことが大事ではないでしょうか。お互い足りない部分を補い合えるような人脈作りも、もちろん大切です。自分も色々な研究分野をもっと勉強して、真に社会貢献できるような研究成果を少しでも多く出せるように精進します。

 

CNFや紙の研究に興味を持ってくださった方は、私までお気軽にお問い合わせください!工学研究科・応用化学専攻にも所属していますが、工学部とか理系じゃなくても、色々な分野の学生さんとお話できたら嬉しいです。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

研究室の様子。

 

ー たとえば文系が、これを使ってメディアアートや哲学がやりたい!とかもありなんですか?

それは要相談ですね(笑)

実際に研究室に配属された場合、研究テーマの相談をする際、研究としてどう成り立たせるか教員の立場としてのアドバイスはしますが、これをどうしてもやりたいと言われたら拒むことはないです。むしろ、それくらいの熱意を持った学生さんがきてくれたら嬉しいですね。

阪大には農学部がないので、セルロースとか紙になじみのない学生さんも多いと思います。しかし、そこに関しては1から教えられるので心配しないでください。むしろ、別分野の新しい風を吹き込んでほしいです!

hkoga@eco.sanken.osaka-u.ac.jp(古賀先生メールアドレス)

 

 

 

 

(文、取材・蒲生由紀子)

関連アイコン関連する記事

はんだい
Processed with MOLDIV
図3
Processed with MOLDIV